2011年4月18日月曜日

プロパブリカ、ピュリツァー賞受賞

2011年度のピュリツァー賞が発表になりました。フィクションや詩の部門もあるけれど、ピュリツァー賞が主に対象とするのはジャーナリズム。ジャーナリズムも、公共サービス、特ダネ報道、調査報道、解説報道、地域報道、全国報道、国際報道、批評、漫画、報道写真などいくつもの部門に分かれているのですが、今回の特徴としては、一握りのいわゆる「エリート」媒体が多くの賞をさらっていくのではなく、全米のいろいろな媒体やそのスタッフが受賞していること。たとえば、調査報道の賞を受賞したのは、フロリダのThe Sarasota Herald-Tribune、解説報道はウィスコンシンのThe Milwaukee Journal Sentinel、地域報道はイリノイのThe Chicago Sun-Times、特集記事はニュージャージーのThe Newark Star-Ledgerの記者たち。ニューヨーク・タイムズなどの大手を含め、どこも新聞がたいへんな経営難に陥っているなかで、各地でジャーナリストたちがこうして骨太の報道を続けるべく努力していること、そしてまた、ピュリツァー賞が彼らの仕事にきちんと目を向けていることに、希望を感じます。

また、今回の注目ポイントは、紙の媒体に掲載されなかった報道に賞が与えられたこと。以前にこのブログで、プロパブリカのことを紹介しましたが、そのプロパブリカが、世界に大不況を巻き起こしたウオール・ストリートの構造を多角的に報道した一連の記事で、国内報道の賞を受賞しました。プロパブリカは、非営利組織という形態をとり、公共性の高いトピックを厳選し、フルタイムの記者が長期間にわたって調査報道をし、緻密に編集された記事をネット上で公開して新聞や雑誌などの媒体に無料で提供する、という画期的な組織。多くの印刷媒体がデジタル化への道を辿るなかで、情報や分析の信頼度だけでなく、論理展開や文章の精度など、本当の意味での「編集」能力によって、報道媒体はふるいにかけられるようになってくると思いますが、プロパブリカの仕事をみると、オンラインであれ紙であれ、真に優れた報道というものは、莫大な能力と労力が注がれたものであるということがわかります。

なお、アメリカ研究者として今回のピュリツァー賞についてさらに興味深いのは、南北戦争期の専門家として名高いコロンビア大学教授Eric Foner氏の、"The Fiery Trial: Abraham Lincoln and American Slavery"が歴史書部門で受賞したこと。(日本のアマゾンではペーパーバックが今秋発売になるようです。)私が日本滞在中はいつもPodcastで聴いているナショナル・パブリック・ラジオの番組Fresh Airで、著者のインタビューがあり、とても興味深かったので、私も読もうと思います。