2011年3月20日日曜日

アル・カンパニー『冬の旅』

一昨日、『バルカン動物園』を観ておおいに元気をもらったので、こういうときにこそお芝居だ、と思って、にわかにチケットをとって今日は新宿のSPACE雑遊で、松田正隆作、高瀬久男演出による、平田満・井上加奈子の二人芝居、『冬の旅』を観てきました。「こういうときにこそお芝居だ」ともっともらしく言ったものの、なぜこういうときにとくに演劇に力をもらえるのか、自分でもうまく言葉で説明できない。ただ、80人ほどの観客が小さな空間としばしの時間を共有し、そこで生身の人間の役者さんがひとつの世界を生み出してくれる、そのこと自体になんだかかけがえのないものを感じ、なにが始まるのかもわからない作品の出だしで平田満が台詞を言い始めただけで、私はなんだか身震いを覚えてしまいました。この作品、異国の海辺の街に旅をしている夫婦の会話で成立していて、筋の説明を求められると困るのですが、脚本は、抽象的なテーマを扱いながらも地に足がついていて、面白可笑しくもあるし、ペーソスもある。ふたりが、同じ場所で同じものを見てじっくり話を重ねながらも、ふたりの話がかみ合っているようないないような、過去の記憶や現在の理解についても、合致しているともいえないけれど違っているともいえない。それぞれが構築する過去と現在のなかで展開される、夫婦のあいだの微妙な緊張と安心を、平田満と井上加奈子が温かく表現してくれます。新宿と新百合ケ丘であと4回公演がありますので、機会があればぜひどうぞ。